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ブログ 2026.10.22
20年で肥料は2倍。それでも農家にできること
さて、今週のテーマ
20年で肥料は2倍。それでも農家にできること

とある県の中部地域農業推進協議会でお話しする機会をいただきました。
ご依頼いただいている内容は
資材費高騰、温暖化による品質低下、収量減少など、これから農家はどうしていけばいいか
農業経営の観点から講演をしてほしい。
全国各地からこのような話が飛び込んできます。
そのために2006年と2026年の「20年比較」を調べています。そこで見えてきたことを、今日は共有させてください。
■ 20年で何が、どのくらい変わったのか
まず、出ていくお金です。
・肥料は、2006年ごろと比べて約2倍の水準になりました
・A重油は、2007年の1リットル71円から、2026年4月には139円になりました
入ってくるお金も大きく動いています。米の相対取引価格を見てみます。
・10年以上、60kg当たり1万2千〜1万6千円台で推移していました
・令和7年産は年産平均35,451円と、過去最高になりました
・ところが今年の新米は、9月時点で21,293円。前年同月より42%安くなっています
気候の変化は、品質にそのまま表れました。奈良県の米の一等米比率は、令和5年度の87.5%から令和6年度は26.5%まで下がりました。主な原因は、登熟期の高温による白未熟粒の増加です。
暑さの中身も変わりました。昔の夏は、雨が降れば気温が下がる「息継ぎ」がありました。今は35℃前後の日が続き、夜になっても冷えません。
資材費の高騰で経営が圧迫され、温暖化で生育が乱れ、収量も落ちる。これが各地の農家が今まさに抱えている課題だと思います。
■ AIで「概要」をつかめる時代になった
今回の数字集めには、AIを使いました。以前なら何日もかけて資料を探していた作業が、数時間で全体像まで見えるようになっています。
ただ、正直に言うと、AIが最初に出してきた数字には出典のはっきりしないものもありました。そこで、農水省の統計や県の資料で確かめ直しています。
それでも、「何が、いつ、どのくらい変わったのか」の概要をつかむには十分です。多少の誤差があっても、向きと大きさが分かれば、次の一手を考え始められます。
■ 正直、対策には限界がある
コストも、市場価格も、天候も、私たち農家にはコントロールできません。どれだけ調べても、肥料価格が下がるわけでも、夏が涼しくなるわけでもありません。
では、お手上げのまま時間が過ぎるのを待つのか。それは違うと私は思います。コントロールできないからこそ、自分の手が届く範囲に目を向けたいのです。
■ 田沼意次と松平定信の違い
ここで少し歴史の話をさせてください。
江戸時代の田沼意次と松平定信。二人の時代はわずか数年しか離れていませんが、世の中の状況は180度違いました。
【田沼意次の時代(1770〜80年代半ば)】
・商業が伸びた好景気の時代
・貿易や開発で富を生み出す「攻め」の政策
【転換点】
・天明の大飢饉に、1783年の浅間山の大噴火が追い打ちをかけた
・各地で一揆や打ちこわしが起き、世の中は一変した
【松平定信の時代(1787〜93年ごろ・寛政の改革)】
・まず生き残るための「守り」の政策
・祖父・吉宗にならった質素倹約を徹底した
どちらが正しかったか、ではありません。景気の良い時代にやるべきことと、災害や有事の後にやるべきことは違う、ということです。
今の農業はどちらに近いか。資材は2倍、夏は息継ぎがない。私は定信の時代に近いと感じています。
ただ、定信の改革には続きがあります。倹約が厳しすぎて、「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」と皮肉られました。倹約だけでは、人も経営も息が詰まってしまいます。
だから「守り」の時代には、二つのことを同時に進めたいのです。乾いた雑巾をしぼるような倹約と、自分の適正価格を知ることです。
■ 自分の「適正価格」を知る
販売額約2,500万円のトマト農家で試算してみます。
【これまで】
・売上 約2,546万円
・生産費 約1,362万円(売上の54%)
・販管費 売上の36%
・所得 約250万円(売上の10%)
資材費などの高騰で、生産費が約1,531万円に増えたとします。売上が同じままだと、こうなります。
【生産費が増えた後】
・生産費の割合 54% → 60%
・所得 250万円 → 100万円(売上の4%)
所得を250万円に戻す道は、二つあります。
一つ目は、他の経費を削ること。販管費を36%から30%まで絞れば、所得250万円を保てます。これが、定信の時代の「倹約」です。
二つ目は、売上を見直すこと。生産費の割合を元の54%に戻すには、売上がいくら必要かを逆算します。
・1,531万4,500円 ÷ 0.54 = 約2,836万円
・元の売上(約2,546万円)から、約11.38%の増額が必要
1箱に直すとこうなります。
・これまで:1箱2,000円
・適正価格:1箱2,227円
これが、今のこの経営にとっての適正価格です。
知ったからといって、すぐに値上げできるわけではありません。市場出荷は需給で値段が決まるので、この計算はそのままでは通用しません。
それでも、直売、契約取引、業務用の相手と話すときには違いが出ます。「なんとなく苦しい」ではなく、「生産費がこれだけ増えたので、1箱2,227円が必要です」と根拠を持って話せます。
数字があれば、交渉のテーブルに着けます。ロジカルに話ができるようになるのです。
■ 課題の解像度を上げる
今日お伝えしたかったことをまとめます。
何がいつ、どのくらい変わったのかを調べる(AIで概要、一次資料で確認)
コントロールできない部分と、できる部分を分ける
倹約で経費を絞り、同時に自分の適正価格(何%の値上げが必要か)を知っておく
一言でいえば、「課題の解像度を上げる」ということです。
そしてこれは、農家だけで抱える話ではないと思っています。普及指導員、JA、行政など、農業者を支える立場の皆さんとも、今起きている現状を同じ数字で共有したい。
「肥料が上がって大変」ではなく、「20年でこれだけ変わった。だからこの経営には、あと11%の売上を上げる具体策が必要」。そう同じ言葉で話せることが、次の一手につながるのではないでしょうか。
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