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ブログ 2026.09.30

豊作貧乏の「正体」について

【お知らせ①】

10月の農ビジセミナーは

第74回農ビジセミナー

開催日:10月9日(金)19:00~

テーマ:僧侶が考える「これからの日本食料」

 

ゲストスピーカー

水穂株式会社  代表 大西晶允さん

https://mizuho-japan.com/

 

【プロフィール】

現職は清水寺僧侶。

日本国の食料が海外に依存している危機感から

日本の農業、食、農村、そして農家が

今後自国の食料生産は自国で賄うことが必要であり

日本にはその力がある、底力チカラがあるとの

思いで、推し農家を広げる「瑞穂」を設立。

現在、頑張る農家と消費者の橋渡しに奔走中。

 

たくさんのご参加お待ちしております。

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さて、今週のテーマ

豊作貧乏の「正体」について

農水大臣が、また変わりました。

 

私が生まれてから数えると、

およそ60人目。

平均すると、ほぼ1年に1人の

ペースで交代しています。

 

新しく就任された簗大臣の

記者会見の記事を読みました。

 

記者の質問は、お米の値段について。

「米価が下がってきている。

どう受け止め、どう対応するのか」

 

大臣の答えを短くまとめると、

こうなります。

 

「価格は民間の取引の中で決まるもの。

国は需給の安定に、引き続き万全を尽くす」

 

歴代の大臣も、

ほぼ同じことを言ってきました。

それ以上でも、それ以下でもない答えです。

 

ただ、読みながら

ひとつ引っかかりました。

 

「需給の安定」と言いながら、

国が動かしているのは

ほとんど「供給」の側だけではないか。

 

■ 国が「量」ばかり触る理由

 

国は、店頭の米の値段を

「3,000円にしなさい」とは言えません。

値段を決めるのは市場です。

 

その代わりに国がやっているのは、

転作支援や備蓄米で、

市場に出回る米の「量」を整えること。

 

余りすぎて、暴落しないように。

足りなくて、消費者が困らないように。

 

では、なぜ需要ではなく供給なのか。

 

答えは、米という作物の性質にあります。

 

米は、値段が下がっても

食べる量がほとんど増えません。

 

経済学では

「価格弾力性が小さい」と言います。

 

5kgが1,500円になっても、

1日6食食べる家庭は現れません。

 

一方で、市場にほんの数%余るだけで

買い手が強くなり、値段は大きく崩れます。

 

だから値段を守ろうとすると、

「出回る量を絞る」以外に

即効性のある手がない。

これが国の手札の実情です。

 

もちろん、需要側の対策もあります。

米粉の普及、パックご飯や日本酒の輸出、

「ご飯を食べよう」のPR。

 

ただ、年間およそ700万トンある

主食用の消費が少しずつ縮んでいく流れを

埋めるには、まだ規模が足りません。

 

会見で大臣が、

食料品の消費税や給付付き税額控除に

触れていたのも印象的でした。

 

農水省だけでは需要を増やしにくい。

だから内閣全体で家計を支え、

「多少高くても買い続けられる」環境を

つくろうとしている。

そう読むと、話がつながって見えてきます。

 

誤解のないように書いておくと、

私は農政を批判したいわけではありません。

 

米がこういう性質の商品だと知っているかどうか。

それだけで、

私たち生産者の見え方が変わる。

そう感じているのです。

 

■ 最高の白菜ができた日

 

少し、私自身の話をさせてください。

 

初めて白菜を作った年のことです。

 

それはそれは、

素晴らしい白菜ができました。

 

初めてなのに、

こんなに良いものができるなんて。

自分を褒めてやりたかった。

「俺は野菜作りが上手なんだ」と、

本気で思いました。

 

意気揚々と、卸売市場へ持ち込みました。

 

そこで、愕然としました。

 

市場には、白菜の山。

 

その年は天候に恵まれ、

どこの産地でも白菜が順調に育っていたのです。

当然、価格は大暴落でした。

 

私が「白菜作りが上手だ」と思ったとき、

ほかの農家さんも、

みんな上手にできていた。

 

良いものができたから、

値段が上がるわけではない。

 

モノが足りないときに、値段は上がる。

 

「いいものを作れば報われる」

そう信じてきた自分の中で、

何かが音を立てて崩れていきました。

 

今の感覚でいえば、

渾身の投稿をしたら、同じ日に

みんなが同じネタを投稿していて

タイムラインが埋め尽くされていた。

そんな感じかもしれません。

 

豊作で量がわずか数%増えただけで、

値段が3〜4割崩れる。

胃袋の大きさが決まっている作物の宿命です。

 

豊作貧乏の正体は、ここにありました。

 

■ 値下げが「武器」の世界と「自爆」の世界

 

たとえば格安航空券や宿泊券割引。

熊本旅行は2026年10月1日からは宿泊料金が

最大60%オフになる九州ふっこう応援割がスタートします。

そうなると

「予定はなかったけど、行ってみようか」

という人が一気に増えます。

 

安さが、新しい需要を生む世界です。

 

一方で、頭痛薬が半額になっても

2倍飲む人はいません。

トイレットペーパーが3割引きでも、

年間の使用量は増えません。

 

お米も、同じ側にいます。

 

弾力性が小さい市場で2割値下げしても、

売れる量はせいぜい数%増えるだけ。

 

売上=単価×数量。

計算すると、売上は確実に減ります。

 

【図解1】

 

家電や洋服は、安くすれば2倍売れる。

でも米は、半額にしても

朝昼晩6食にはなりません。

 

私たちは最初から、

安売りで数を稼ぐことが

構造的に難しい商売をしているのです。

 

■ 別のゲームという選択肢

 

相場に合わせてコストを削り、

少しでも安く出す。

その消耗戦は、あまりにしんどい。

 

胃袋の限界を超えられないなら、

違うステージを選ぶという手もあります。

 

これまで多くの農家さんと関わってきて、

手応えがあったのは次の3つでした。

 

① 主食ではなく「贈り物」「体験」として届ける

出産内祝いの体重米、

化粧箱入りの食べ比べセット。

カレー専用米、キャンプ用無洗米。

用途を絞るほど、相場から離れられます。

 

② 形を変えて外へ出す

日本酒、クラフトビール、米粉スイーツ。

お客さんが「ご飯を食べる人」から

「余暇や健康を楽しむ人」に変わります。

 

③ ファンをつくる

田植え・稲刈り体験、生育レポートの配信。

買う人が払っているのは、米の代金だけではなく

「この田んぼを応援したい」という気持ちです。

スーパーの相場が動いても、離れにくい。

 

【図解2】

 

■ それでも、全員ができるわけじゃない

 

「いやいや、それって

誰もができることじゃないですよね」

 

その通りだと思います。

私もそう思います。

 

ギフトも、加工も、ファンづくりも、

手間と時間と人が要る。

多くの農家さんは、

今の米市場の中で勝負を続けることになります。

 

だからこそ、

その市場を国が下支えしていることの意味が

見えてきます。

 

量を整えて、暴落を防ぐ。

地味で目立たない仕事ですが、

市場の中で踏ん張る人にとっては

足元の床板のような存在です。

 

若いころの私は

「国は何もしてくれない」と

思っていた時期もありました。

 

でも、あの白菜の山を思い出すと、

もし誰も量を調整しなかったら……

と考えずにはいられません。

 

別のゲームに踏み出す人も。

今の市場で踏ん張る人も。

 

自分が立っている場所の「ルール」を

知っているかどうかで、

打てる手は変わってくる。

 

長く農業に関わってきて、

ようやくそこが見えてきた気がしています。

 

農テラスでは、

「うちの作物、どのステージで戦うのがいいだろう?」

という段階からの無料経営相談を受けています。

同じ悩みを持つ仲間と考える場として、

「農ビジ会」もあります。

気になった方は、プロフィールのリンクからどうぞ。

 

農業界を明るく照らす農テラス。

今日も一緒に、脳を耕しましょう!

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