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ブログ 2026.10.17
農家は「作るプロ」であると同時に、「お金を回収するプロ」にもなろう。
農家は「作るプロ」であると同時に、「お金を回収するプロ」にもなろう。

農家の皆さんに、一つ質問があります。
あなたは、自分が作った農産物の代金を、どうやって受け取っていますか?
「農協に出荷すれば、あとから振り込まれるよ」
「市場に持っていけば、値段が決まってお金になるよ」
そうですよね。
多くの農家は、農産物を出荷すれば、その後の販売や代金の精算を流通の仕組みに任せることができます。
これは、とても便利な仕組みです。
しかし、私は農家時代、この仕組みの中で農業をしながら、ずっと考えていたことがありました。
自分の農産物の値段を、自分で決められない。
これで、本当に経営が成り立つのだろうか?
今日は、そんな疑問から始まった、私自身の経験についてお話ししたいと思います。
■ 農家は、なぜ請求書を書かなくても商売ができるのか?
一般的な商売を考えてみましょう。
ラーメン屋さんにお客さんが来て、ラーメンと餃子を注文した。
食べ終わったら、代金を支払います。
お客さんが食べたものと、その代金が明確になっています。
会社同士の取引でも同じです。
商品を納品し、納品書を発行し、決められた条件に従って請求書を送り、代金を受け取る。
これが商売の基本的な流れです。
ところが、農業には少し違った仕組みがあります。
例えば、白菜を10玉入りで10ケース、市場に出荷したとします。
その時点では、まだ販売価格が確定していないことがあります。
その後、競りなどによって価格が決まり、販売代金が精算されます。
農家は、自分で請求書を書かなくても、お金を受け取ることができるのです。
農協を通じて出荷すれば、選別や箱詰め、配送、代金回収などの工程も、仕組みによって支えてもらえる場合があります。
つまり、農家は農産物を作り、出荷することに集中しやすい。
これは、農業を支える素晴らしい仕組みです。
ただし、ここで一つ考えてほしいことがあります。
お金を受け取れることと、自分で商売をコントロールできることは、同じではない。
この違いです。
■ 私も、入金された金額に一喜一憂していた
私も以前は、農産物を作って農協に出荷し、あとから入金される金額を見て一喜一憂していました。
価格がよければ、うれしい。
「今月はよかったな!」
少し気持ちに余裕が生まれます。
ところが、価格が下がると一気に不安になる。
「これじゃあ、生活が厳しくなるぞ……」
自分が一生懸命に作った農産物なのに、最終的にいくらで売れるかは、市場の状況に大きく左右される。
もちろん、市場価格が高くなり、思った以上の収入になることもあります。
市場出荷には、そうしたメリットもあります。
しかし、価格が下がったとき、農家にできることは限られます。
すでに出荷した農産物の価格を、あとから自分の都合で変えることはできません。
私は、そんな経営を続けながら、次第に不安を感じるようになりました。
このままでは、農産物の価格が下がり続けたとき、経営を維持できなくなるのではないか。
農業を続けていくためには、栽培技術を磨くだけでは足りないのではないか。
そう考えるようになったのです。
■ 農家が学ぶべきなのは、栽培技術だけではない
農家は、作ることに関しては本当に努力家です。
よりよい品質の農産物を作ろうとする。
収量を増やそうとする。
病害虫を防ぎ、天候に対応し、毎日畑に出て作物の状態を確認する。
こうした努力があるからこそ、私たちの食卓に農産物が届きます。
私は農家だったからこそ、その苦労がよくわかります。
しかし、農業経営を考えるとき、もう一つ大切な仕事があります。
それは、作った農産物を商売として完結させることです。
誰に売るのか。
いくらで売るのか。
どれだけ売るのか。
どんな条件で納品するのか。
そして、いつ、どのように代金を受け取るのか。
ここまで考えて初めて、農産物を作る仕事が、経営としてつながっていきます。
極端な言い方をすれば、どれだけ立派な農産物を作っても、適正な価格で売れなければ、経営は成り立ちません。
どれだけ売上があっても、代金を回収できなければ、手元のお金は増えません。
売上と入金は違う。
利益と現金も違う。
これは農業に限らず、すべての商売に共通する原則です。
だからこそ、農家も販売や契約、請求、代金回収について学ぶ必要があるのです。
■ 私が苦労したのは、請求書を書くことだった
私は、農協や市場への出荷だけでなく、あらかじめ価格や規格、数量などの条件を決めて取引する方法にも取り組むようになりました。
いわゆる契約栽培や直接取引です。
例えば、白菜1ケースを1,000円で取引すると決める。
その条件で10ケースを納品すれば、売上は1万円になります。
もちろん、経費を差し引かなければ利益はわかりません。
また、実際の取引では、規格や数量、納期、送料、支払条件などを確認する必要があります。
それでも、販売条件が事前に決まっていれば、売上を予測しやすくなります。
ところが、直接取引を始めて、私は別の壁にぶつかりました。
請求書が書けないのです。
そもそも、どうやって書けばよいのかわからない。
納品書とは何か。
請求書はいつ送るのか。
締め日とは何か。
支払日はいつなのか。
農家時代には、あまり意識していなかったことばかりでした。
しかし、取引先と商売をする以上、知らないままでは済みません。
納品した内容を記録する。
取引条件に従って請求する。
期日までに入金されたか確認する。
支払いが遅れたら、相手に連絡する。
こうした仕事を一つずつ覚えていきました。
今思えば、請求書の書き方を学ぶことは、単なる事務作業を覚えることではありませんでした。
自分の商売を、自分で管理することを学んでいたのです。
■ 農家は、お金を回収することに遠慮してはいけない
ここで、もう一つ伝えたいことがあります。
農家の中には、取引先とのお金の話が苦手だという人もいるのではないでしょうか。
「値上げをお願いしたら、取引を切られるかもしれない」
「支払いが遅れているけれど、催促しづらい」
「請求金額が間違っていたらどうしよう」
そんな気持ちになることもあるでしょう。
しかし、考えてみてください。
あなたは、相手のために農産物を作り、約束した商品を納品したのです。
その対価を受け取るのは、当然のことです。
請求することは、相手に無理をお願いすることではありません。
約束した取引を完結させるために必要な手続きです。
もちろん、取引条件の確認や丁寧なコミュニケーションは必要です。
万が一、支払いが遅れている場合も、まずは事実を確認し、契約や納品記録に基づいて対応することが大切です。
相手を信頼することと、お金の管理を相手任せにすることは違います。
長く付き合いたい取引先だからこそ、お互いに気持ちよく商売を続けられるルールが必要なのです。
農家だからといって、お金の話を遠慮する必要はありません。
あなたが提供した価値に対して、正当な対価を受け取る。
それもまた、プロとしての仕事です。
■ 市場出荷か、直接取引か。大切なのは選べること
ここまで読むと、「市場出荷をやめて、すべて直接取引にすればいいのか」と思う方がいるかもしれません。
私は、そうは思いません。
市場出荷には、市場出荷のよさがあります。
販売先を自分で一つずつ開拓しなくても、流通の仕組みを利用できます。
直接取引には、直接取引の難しさがあります。
取引先との交渉が必要ですし、納品条件への対応や代金回収の管理も求められます。
相手の事情によっては、支払いが遅れたり、取引が継続できなくなったりするリスクもあります。
どちらか一方が絶対に正しいという話ではありません。
市場出荷を基本にしながら、一部を直接取引にする方法もあるでしょう。
複数の販売先を持ち、それぞれのメリットを活用する方法もあります。
大切なのは、自分の経営に合った販売方法を選べることです。
そのためには、選択肢を知り、それぞれの仕組みを理解し、自分で判断できなければなりません。
知らないから選べない。
怖いから挑戦できない。
それでは、いつまでたっても経営の選択肢は増えていきません。
■ 作るプロから、商売を完結できるプロへ
私は、農業者を支援する仕事をしています。
これまで多くの農家や農業関係者と接してきました。
そこで感じるのは、農家には優れた生産技術を持つ人がたくさんいるということです。
一方で、その技術をどう収益につなげるか、どうお金を残すか、どう経営を安定させるかについては、まだ学べることがたくさんあるとも感じています。
だから私は、農家の皆さんに、もっと経営を学んでほしいと思っています。
農産物を作ることは、もちろん大切です。
しかし、作ることだけが農業ではありません。
販売先を考える。
価格を考える。
取引条件を考える。
請求をする。
代金を回収する。
利益を確認し、次の投資や経営判断につなげる。
こうした仕事も、農業経営の一部です。
農家は、農産物を作るプロであると同時に、お金を回収するプロにもなろう。
私は、これが農業経営を安定させるための、大切な視点だと思っています。
請求書を一枚書けるようになること。
それは、小さなことかもしれません。
しかし、その一枚の請求書が、自分の商売を自分で管理する第一歩になることもあります。
栽培技術を磨くように、経営の技術も磨いていく。
作る力だけでなく、売る力も身につける。
農業者から、農業経営者へ。
私は、そんな農家を一人でも多く増やしていきたいと思っています。
さあ、今日も一緒に、脳を耕していきましょう!